美学研究者・青田麻未インタビュー 「日常美学」がつくる世界
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美学研究者・青田麻未インタビュー 「日常美学」がつくる世界
2025.5.6up
「日常美学」──この言葉に、思わずハッとさせられた。美学は生活と対極の崇高なもの。そんな先入観を解き放ち、“普通の暮らし”に光を当てる。案内人は気鋭の美学研究者・青田麻未。ここから広がる、新しい日々の眺めとは。インタビューと参考作品を手がかりに、探っていこう。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年4月号掲載)
坂本龍一+Zakkubalan『async–volume』 東京都現代美術館「坂本龍一|音を視る 時を聴く」展(〜3月30日)の出展作品。 2017年 「Ryuichi Sakamoto | SOUND AND TIME」展示風景、成都木木美術館(人民公園館)、2023年 画像提供:成都木木美術館
「点在するiPhoneやiPadに、坂本龍一のスタジオ、リビング、庭などの映像と音が流れている。それら小さな光る窓を覗き、息吹に触れることで、生活とアートを隔てる境界の薄さが浮かび上がってくるよう」
普段の生活を見つめ直す「日常美学」の考え方
──「日常美学」とはそもそもどんな学問なのでしょうか。
「日常美学は、日々の暮らしを支える活動やモノを通じて『美』を捉える学問領域として、21世紀に入って活発に議論されるようになりました。
まず『美学』そのものの成り立ちについて説明すると、美学は18世紀に哲学の一つとして西洋で誕生しました。唯一の正解があるわけではないけれど、誰もが共通して感じられる『美』という価値について議論する学問領域です。
美学が生まれた18世紀の西洋は『芸術』という概念が誕生した時代でもありました。それまで絵画や彫刻といった美術は、靴など日用品を作るための職人仕事の一つであり、それに対して音楽や文学は学問と同じものだと区分されていました。しかし美術も『美』を作り出すという意味では音楽や文学と同じです。そこで、これらは『芸術』という一つの括りで考えられるようになりました。
そのように『芸術』が成立した時代に、芸術を成立させている『美』について論じようと生まれたものが『美学』です。ですから『美学』と『芸術』は切り離せない関係のもとに発展してきた背景があります」
──「美学=芸術について議論する学問」だったわけですね。
「しかし実際には、美学はもっと広い射程を持つことのできる学問です。『美学』を英語にすると『Aesthetics(エステティクス)』。直訳するなら『感性の学』です。美学ではなく『感性学』と呼ぶ研究者もいます。名前に込められた意味に立ち返ると、美学は芸術論よりももっと広く私たちの感性の働きについて議論する学問だということがわかります。感性の働きとはどういうことかというと、私たちは夕暮れの景色や、椅子のデザインを見て感動することがありますよね。贈り物の包装に美しさを感じることがあります。これらは芸術とは呼べないけれど、そこから何かを感じ取ることができる。また、私たちの心の動きは、必ずしも美という言葉で表現できない場合もあるかもしれない。それも含めて『何かを味わうことで心を動かされるとは、どのようなことか』に注目するというのが、美学という学問の仕事です。
それでも、芸術について議論することが長らく美学の中心にありました。そのなかで1970年前後に、自然など芸術ではないものを議論の対象として、都市環境などさまざまな環境について議論する『環境美学』が生まれました。そして次は、広く人々が生活する環境、生活そのもののあり方に関心が集まり、普段の暮らし方にも議論の対象を見いだせるのではないかという考えから『日常美学(Everyday Aesthetics)』が誕生したのです」
──日常生活の美を追究するということでは「民藝」とも重なる部分があるのでしょうか。
「『用の美』など日常品に美を見いだすという意味では重なるところがありますが、やはり民藝は柳宗悦(やなぎ・むねよし)を中心とする当時の民藝運動やその理念が研究対象となるのに対し、日常美学は生活そのものが対象です。重なる部分は大きいと思いますが、見ている対象や方法は異なります」
──それまでの美学と日常美学とで、大きく異なる点は?
「美学では芸術を鑑賞する側からの視点で『美』を議論しますが、日常美学では、私たち自身が行為者です。毎日の家事や食事、通勤通学など、生きていくためにするあらゆること。その集積としての『生活』が議論の対象になります。日常なんて、取るに足りないつまらないことの繰り返しだと思うかもしれませんが、日々同じように行動していると思われる生活の反復行為にも、自分なりの感性を働かせて、心地よさを得るために工夫していることが多々あります。さらにいえば、その積み重ねが社会を形作っている。生活者は、『世界制作』へ参加しているともいえます」
何げない感性の働きで“自分の世界”を制作する
──日常の暮らしが、すごく立派な仕事のように思えてきました。
「確かに、生活が『世界制作』につながるといわれても意識できないかもしれません。例えばファッションであれば、デザイナーやブランドなどプロの仕事によって成り立っていると思われがちですが、それは見方の半分にすぎません。生活が社会に影響を及ぼしている例として、スーパーマーケットに並んでいるような同じ色・形の美しい野菜だけではなく、本来は流通に乗らない規格外の不格好な野菜を『これもユニークで、個性的だ』と楽しんでみる。このように感性の動かし方を変えると、やがてそうした野菜が流通・販売されるようになり、ひいては環境への配慮につながっていく可能性があります。
それだけではありません。自分の生活にフィットするように好きな家具を配置し、自分の小さな世界を作って楽しむような些細なことも、感性に基づく『世界制作』なのではないかと日常美学では考えます。では、『感性の働き』とは何かというと、美や快に向かって心がどう動くかに基づく判断です。心の動きは論理的なものではないので『1+1=2』といった明快な方程式には収まりません。また、道徳的な理念に基づくのではなく、感覚を基盤とする判断にもなるところが、感性の働きの特徴ともいえます」
──情報化社会で私たちは流行やメディアの情報に踊らされがちですが、そうではなく自分の心の働きに注目するということですか。
「ファッションをはじめとして、スイーツなどの食べ物にも流行のお店があったり、家庭料理であっても『テーブルセッティングはこうしましょう』という流行り廃りがあったりするなど、自分の心が判断する前に『今、これがよしとされています』という情報が、メディアやSNSなどいろいろなところから入ってきます。でも一人一人の生活条件が異なる以上、全部を取り入れようとすると破綻を来してしまう。自分がいいと判断したときに取り入れる、その際に理想と現実の生活をどう擦り合わせていくかを考えるにあたって、感性に頼ることができるのではないかと思います」
映画やアートに見る“日常のなかの美”
ヴィム・ヴェンダース『PERFECT DAYS』 東京を舞台に、役所広司演じるトイレ清掃作業員の日々を描く(詳細はヒント集の記事を参照)。 ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.
「日常のルーティンを通じて自分の生活スタイルを維持するとはどういうことか。機械的な反復ではなく、変化する世界に応じながら自分だけのリズムを刻んでいく様子が興味深いです」
──私たちが日常美学を感じられるような、映画やアート作品の例があれば教えてください。
「映画やアート、文学などの芸術作品は、どういうものに美しさが宿り得るかをを私たちに提示してくれるものでもあります。『自分の生活だったらどうだろう?』と考えるきっかけにもなりますね。そういった点で日常の美的経験と結びつく作品を考えると、一つはヴィム・ヴェンダースの『PERFECT DAYS』です。役所広司さんが演じるトイレ清掃作業員の平山は、畳の和室で鉢植えの木を育て、文学に触れ、銭湯に通い、行きつけの飲み屋に行くという、同じルーティンを毎日繰り返しています。これは単なる繰り返しのように見えますが、彼は雨が降っても風が吹いても、自分の行動を微調整しながらこの生活スタイルを維持しています。何がそうさせるのかという点においても、興味深いものがありました。
日常美学においては、日常の美の本質を捉えようとする二つの立場があります。一方はルーティンの安定がもたらす心地よさを一つの『美的快』として捉える考え方です。また反対に、日常のなかの特別な瞬間に注目するという立場があります」
ヴィム・ヴェンダース『PERFECT DAYS』 ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.
──ルーティンの美的快とは?
「動画コンテンツでも『モーニングルーティン』が人気ですが、毎日行われる反復行動には、行為の応酬を楽しむ側面、行為に伴う快があります。それがこの映画で感じられることでもあるのですが、一方で、ヴォルフガング・ティルマンスの写真には、日常の特別な瞬間が感じられます。さまざまなものが雑多に存在しているだけの写真ですが、普段の生活で見落としてしまいそうな光景のなかに、輝く瞬間があるんだということを気づかせてくれます。
ただし、これは『この映画や写真のような生活を送りましょう』という提案ではありません。この映画や写真のどこに感性を動かされるのかも、人によってさまざまでしょう。しかし、作品を見ることで、なぜ感動したのか、美しいと思ったのかと考え、自分に向き合うことが大切なのではないかと思います。日常のなかで自分がどんなふうに感性を働かせているのかを意識すると、触れるもの全ての見方が変わってきます。それは時間がかかることですよね。時間をかけて作り上げた生活が、スタイルのある生き方につながっていく。『時間』は私が今、興味を持って研究していることの一つです」
ヴォルフガング・ティルマンス『still life, Bourne Estate』 何げない窓辺を写した、静物画のような作品。2002年Courtesy Wako Works of Art
「普通なら見落としがちな物や風景を拾い上げた写真作品。こうした場面が見る者の生活のなかにもあるんだ、という可能性を気づかせてくれる一例です」
時間をかけてより深く自分の日常と向き合うこと
「中田家コレクション」の食品棚 大阪の町家で暮らした故人のあらゆる持ち物を「生活財」として武庫川女子大学が保存。同大学付属総合ミュージアムと生活美学研究所の共催による展示も行われている。 2009年 撮影・写真提供:横川公子
「おびただしい数の瓶や缶が詰め込まれ、中田静さんの在りし日の人となりが浮かび上がる食品棚。人間が時間をかけて物や空間と向き合い、暮らしを作り上げていく様子を垣間見ることができます」
──日常の時間の積み重ねが、その人の生活スタイルを作っていく、ということですか。
「先ほど、誰もが『世界制作』の参加者であると話しましたが、日常の家事、育児、仕事など、どんな行為にも時間はかかりますよね。時間を重ねながら感性に基づく生活を形作っていくことで、生活のルーティンが出来上がっていきます。また、時間による変化も味わい深いことの一つです。
例えば、武庫川女子大学が所有する『中田家コレクション』。大阪の町家で長く一人暮らしをされていた中田静さんの自宅にあったものがそのままそっくり保管されているのですが、人からもらったものなどが包装紙にくるまれるなどして、一見すると雑多に集められている。しかしよく見ていくと、それらは丁寧に管理されており、中田さんとモノとの関係が構築されていることが浮かび上がってきます。ここに至るまでには、相当な時間がかかっているはずです。こうした記録を通して、インテリア雑誌で紹介される素敵な部屋とはまた違う、時間をかける意義や、美的な経験を感じることができるのではないでしょうか。
感性を動かされるほどの美は、時間をかけなくては本質が見えてこないものでもあります。例えば、旅行で行ったパリのルーヴル美術館で、人混みの中、一瞬だけ『サモトラケのニケ』像を見ても、なかなか心から美しいとまでは感じられませんよね。人生に深く影響を与える美的経験は、やはりある一定の時間をかける必要があると思います。その点は芸術でも日常でも変わりません」
──いわゆる「丁寧な暮らし」と、時間をかけて生活と向き合うこととは、また別のことでしょうか。
「よく『日常美学は『丁寧な暮らし』とはどう違うのか』と質問されることがあります。時間をかけるといっても、単に手間をかけるほうがいいというわけではなく、時間をかけてその人がどれだけ自分の心や生活に向き合ってきたかを重視するのが日常美学の考え方です。それから、いわゆる『丁寧な暮らし』もいいのですが、それをパッケージとしてそのまま真似するのではなく、本当に自分に合った暮らし方なのかどうかを考える必要があります。
現代は誰もが時間に追われていて、生活に時間なんてかけていられないと思うかもしれません。しかし、アルゴリズムでおすすめされたものを盲目的に取り入れるのではなく、そのとき自分はどう感じたのかに意識を向けることで、他人の意見に支配されない自分らしい生活、情報に踊らされない生き方を形成することができるのではないでしょうか」
──個人の暮らしを変革するきっかけになることはわかりました。では、日常美学は社会に対してどんな影響を及ぼすと思いますか。
「日常美学は、従来の固定的な観念や、権威づけられたものを打ち崩そうとする実験的な学問です。この視点を生活者が取り入れることで、資本主義社会で生活する私たちがお仕着せの情報や既成概念にとらわれず、自分の感性に従ってより満足のいく生活を送ることができるようになると思います。また、不揃い野菜の例のように、一人一人の価値観が積み重なることで、新しい社会の可能性を探っていくことができるのではないか。そう期待しています」
Interview & Text : Miho Matsuda Edit : Keita Fukasawa
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